当塾講師陣による都立高校入試分析を掲載します。
≪概要(難易度)≫
英語:昨年度並み(例年と比較すれば難しい水準)
数学:昨年度並み
国語:易化
理科:難化(4年ぶりの高難度)
社会:昨年度並み~やや易化(例年と比較すれば難しい水準)
全体:国語の易化の影響が大きく、昨年度よりも5点弱高い平均点を予想する
≪詳細≫
英語 予想平均点:55点前後
昨年度の平均点は54.4点であったが、今年度も同等の水準を予想する。
問題構成に大きな変化はなく、昨年同様の出題形式であった。
英語のレベルは標準的だったため、上位層には安定した得点が望めたものの、紛らわしい選択肢で失点を招いた受験者もいたかもしれない。特に大問2では、昨年度のような計算を扱う問題はなかったが、本文の内容から間接的に答えを求める必要があった。このため安易に文中の表現のみを根拠に解答すると、上位層でも失点しやすい設問であった。
英作文は「環境にやさしい生活を送るためにできること」がテーマだった。
英検準2級を保有するような上位層の受験生には馴染みのあるトピックではあるが、下位層の受験者には少し書きづらかった内容と推測する。このテーマで練習をした経験があったかどうかで、できが分かれるところであり、上位層と下位層のばらつきが予想される。
以下、大問別に分析する。
大問2:やや難。
特に1、2は文中に直接的な解答根拠がなく、間接的に(消去法で)解答を求める必要があった。
英作文は環境がテーマだった。例年の身近な生活に関するトピックと比較すると、難易度はやや高い。
しかし、環境は受験生にとっても比較的身近な社会問題で、教科書にも頻出のテーマである。
昨年度の長文(大問3)にも環境に関わる内容は出題されているため、過去問を丁寧に解いて入試対策をしていた受験生は十分対応できただろう。
大問3:標準レベル
問題構成は例年通り、昨年度よりも内容が把握しやすく、選択肢も紛らわしいものはなかった。
設問に関わる指示語や省略された内容が前後の文脈から容易に把握できるため、全体的に解答しやすかった。
大問4:標準レベル
問題構成は例年通り、難易度はほぼ同等だが、昨年度よりも問3以降の設問の英文が短く、平易になった。一部紛らわしい選択肢もあるが、丁寧に文中に根拠を求めて解答すれば対応できるレベル。
数学 予想平均点:65点前後
昨年からの変更はなく、難易度も昨年並み。
例年の流れを踏襲した標準的な問題が並んだ。
過去問や模試の解き直しを繰り返してきた受験生にとってはありがたい「準備してきたことがそのまま生きるテスト」だったと言える。
以下、大問別に分析する。
大問1:標準
例年どおりの出題形式。
内容としては、都立高校の出題としては珍しいものもあった。①2次方程式が解の公式を使う、②円周角の問題が弧の長さの比を使う、これらは都立高校ではあまり出題例がなかったものである。しかし、決して難問はなく、全体的な難易度も例年並みで、ここで確実に得点を重ねることは全ての受験生に求められる。
大問2:やや難
昨年の超難問だった大問2に比べると易しく感じるが、それでも大問2に関しては難化傾向が見て取れる。
問1は文字式の計算処理と因数分解が正しくできれば誤答を選ぶことはない問題。
問2も文字数が多く、一見難しく見えるものの分かっているものが多いので、一つずつ求めていけば証明したい式にたどり着くことができる。上位校~中堅上位校の受験者であれば、得点しておきたい問題。
大問3:標準
4択ではない選択式になったが、選択肢が多いので、正確に答えを求める必要がある。
問1、問2は例年どおり取りやすく、問3だけが難しいという例年と同じパターンだったので、問3はあっさり捨てて次に進んだ受験生も少なくなかっただろう。
大問4:標準
例年どおりの出題で図形の証明は三角形の合同であった。
直角三角形だが、斜辺が等しいことは判明していないので「直角三角形の合同条件」による証明ではない。その点を注意すれば、全く問題なく答案が書ける。
最後の問題もまた、例年どおり難しい設問ではあったものの、大問3や大問5の最後の問題よりは取りやすく3問(大問3・4・5の最後の設問)の中で1問でも正解を狙うならこの問題だったと言えるかもしれない。
前問題で証明された合同と三平方の定理を使えば「ひらめき」や「発想」を要せず解ける問題だった。
大問5:標準
問1の面積は設問を正しく読み取り三平方の定理を使えば、難なく解ける標準的な問題であった。過去問等で慣れていれば易しく感じたことと思われる。
問2は高さを求めるときにどの図を切り取って書くかがポイントで、ここの問題としては例年のことだが、難易度は高かったと言える。
国語 予想平均点:78点(歴史的高水準)
ここ20年程度の出題の中で最も易しい水準。都立高校入試史上最も易しかった可能性さえある。
本文が長くなかったこともあり、時間的にも余裕を持って解けた受験生が多かったのではないか。
全国の公立高校入試の中でも最高レベルの平均点となる見通し。
塾生の自己採点結果では、3分の2の受験生が90点以上の得点となる異常事態が発生した。
上位層で国語が得意な受験生は、周りからリードを奪えず不利に働いた。同様に下位層で国語が苦手な受験生は、周りが得点できる中、得点を伸ばせなかったとすれば、合否に大きな影響を及ぼしてしまった可能性がある。
以下、大問別に分析する。
大問1・2:易
漢字(配点20点)の昔から不変の出題。本年の出題は易しい水準であり、中堅校以上の受験者であれば、全問正解することが基本。
大問3:易
紛らわしい選択肢がほぼなく、非常に易しい水準。満点の受験生が続出したと思われる。
近年の出題の中では、本文は短い部類に入り、ストーリーとしても読みやすい。短時間で解答することも難しくなかった。
大問4:やや易
中学生にとっては、馴染みのない語句もでてきて、本文はそれなりに読みごたえがある文章であった。しかし、本文に多少の読みづらさを感じたとしても、設問の選択肢は素直に正解を選べるものばかりであり、決して難度は高くない。中堅校以上の受験者であれば、全問正解か1問ミスで終えたいところ。
作文テーマは「組織論」であり、中学生にはどうかなとも感じたが、本文にサッカーチームの例が挙げられており、作文のヒントになったようだ。多くの受験生は部活動や委員会活動等の自身の具体的な体験を踏まえた作文がしっかりと書けたようであり、むしろ頻出の「文化論」などよりも書きやすかった印象である。全体が時間不足に陥るような問題ではなかっただけに、ここで差がつくことは考えにくい。
大問5:やや易
例年通りの現古融合文(対話文)である。過去問題等でしっかりと練習していれば、特に問題なく解ける。例年と比較して紛らわしい選択肢が少なく、満点を取りやすかった。また、最後の大問であるだけに時間不足に陥る受験生がいると正答率が下がる傾向にある大問だが、今年は他の大問でいつもよりも時間がかかることはないと思われ、しっかりと時間を確保できたはずだ。十分に時間をかけられれば、崩れることは考えらない。
理科 予想平均点:54点
昨年と比較して確実に難しくなっている。
問題の構成は変わらず、大問1が小問集合、大問2がレポートを見て答える小問集合、大問3以降はそれぞれ地学、生物、化学、物理で大問が構成されている。
明らかな変更点としては、問題数の変更が大きい。大問1が一昨年から7問(3年前まで6問)であったが、今年は5問と減少し、その分、大問3以降の問題数が増加した。また、4択の問題は減少し、社会に続いて理科でも完答式の設問が一気に増加した。「カンで当たる」ことがなくなり、より実力が出る出題となった。
各大問とも情報量が例年に比べて増加し、その情報の整理がいかに正確で素早くできるかが、今年の理科の問題を解くうえで大きなポイントとなったと言える。
以下、大問別に分析する。
大問1:標準
難易度は例年並み、中堅以上の志望者であれば全問正解が求められる。
大問2:やや難
問題の形式に変更はなかったが、例年レポートの内容を読まなくても解ける問題が多く出題されていたのに対し、今年の問題はレポートの内容を読まないと解けない問題や、レポートに書かれたデータを使って解く問題が増加した。また、水質調査の結果から水質階級を求める問題では、文章で書かれた内容と表に書かれた指標生物を整理して考えないと解けない問題で時間を奪われた受験生も少なくないと思われる。
大問3:難
問1の日の入りの時刻を求める問題以外はあまり一般的な典型問題ではなく、初見の受験生も多かったと思われる。
南半球における太陽の動きを選ぶ問題や、太陽の光が最も当たる試験管の角度を求める問題は地球を俯瞰して見る力や思考力が求められる問題で、容易に解ける問題はなかった。
大問4:やや難
人体の消化に関する出題で、一般的な実験ではあるものの実験が3つあり、情報を整理するのに時間がかかる。
設問自体は難しくないが、完答式の問題は選択肢も多く、知識・思考力のどちらも必要な問題であった。
大問5:標準
問4を除いて、知識があれば解ける一般的な出題。
大問1同様、中堅校以上の受験生であれば正解が求められる問題が多い。
問4は実験結果から溶質を見破ることさえ出来れば難しくはないが、情報が多く時間も奪われた中で冷静に情報を整理できたかがこの問題を解くうえでポイントとなった。
大問6:やや難
問1のグラフは素直にデータを取るだけなので簡単だった。
問2は「電熱線Bに流れる」を読み落とし誤答を選んでしまうことが想定される。
計算問題としての難易度は高くないが、ここでも情報を整理する力が求められた。
社会 予想平均点:54点
難度は昨年度並み~やや易化した印象であるが、例年と比較すれば難しい水準である。
問題構成に大きな変更はなかった。
ここ2年、増加を続けていた完答式の設問が、ほぼ昨年度水準で維持された。選択問題ではあるが、もはや「カンで当たることはない」出題が完全に定着している。
大問1⑵は地図がらみの歴史の出題であった。これまでも頻出であった世界遺産の位置を問う問題であったが、登録されたばかりの大仙古墳が出題された。昨年度は地図の絡まない純然たる知識問題であったので、出題傾向としては「従来のものに戻った」形である。
全体的な難度は高めであり、「受験生の大半が正解しているはず」と言える問題はほぼない。とはいえ、過去の出題の焼き直しが多く見られ、過去問題の演習の質が高ければ、高得点が期待できる。
一方で、前述の登録されて間がない世界遺産や開通して日が浅い新東名高速道路について出題されるなど、できる限り最新の知見を問題に反映させようという出題者の意思を感じた。
月並みではあるが、「用語を覚えるだけ」という勉強から脱却し、地図や図表の読み取りも含めて興味を持って社会の勉強をすることが高得点への近道と言える。